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大阪地方裁判所 昭和62年(ヨ)4275号 決定 1988年1月14日

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別紙当事者目録のとおり

右当事者間の頭書仮処分申請事件について、当裁判所は申請人らの申請を相当と認め、申請人らに保証を立てさせないで、次のとおり決定する。

主文

一  申請人灰孝小野田レミコン株式会社と被申請人との間において、被申請人は、その所属する組合員又は第三者をして、別紙車輌目録1(略)記載の車輌に対し、ビラを貼付させてはならない。

二  申請人洛北レミコン株式会社と被申請人との間において、被申請人は、その所属する組合員又は第三者をして、別紙車輌目録2(略)記載の車輌に対し、ビラを貼付させてはならない。

三  申請費用は被申請人らの負担とする。

(裁判官 田畑豊)

仮処分命令申請書

申請の趣旨

一、被申請人は、その所属する組合員または第三者をして、別紙車両目録記載の車両に対し、ビラを貼付させてはならない。

二、申請費用は被申請人の負担とする。との裁判を求める。

申請の理由

一、当事者

(一) 申請人灰孝小野田レミコン株式会社(以下「灰孝小野田レミコン」と略称する。)は、肩書地に本社を、滋賀県大津市本宮一丁目四番地二六に大津工場を、同県栗太郡栗東町伊勢落弁才天に栗東工場を置き、建材の製造・販売等を業とする、資本金四〇〇〇万円の株式会社で、現在の従業員数は、七四名である。

(二) 申請人洛北レミコン株式会社(以下「洛北レミコン」と略称する。)は、肩書地に本社及び工場を置き、建材の製造・販売等を業とする資本金一〇〇〇万円の株式会社で、現在の従業員数は、二五名である。

なお、洛北レミコンは、灰孝小野田レミコンの関連会社である。

(三) 別紙車両目録(1)の車両は灰孝小野田レミコンが、同(2)の車両は洛北レミコンが、それぞれ所有権(または使用権限)を有し、右権限に基づいてこれを管理し、会社業務のために使用しているコンクリート・ミキサー車である。

本件車両は、申請人会社両社が申請外日産ディーゼル京滋販売株式会社より所有権留保特約付割賦売買契約により購入したものであり、被申請人組合員が乗務し、現在ビラを貼付している車両である。

(四) 被申請人組合は、生コン産業および運輸・建設一般産業等で働く労働者によって組織された労働組合であり、現在約一、〇〇〇名の組合員を擁していると称している。

昭和五五年五月七日、灰孝小野田レミコン大津工場の従業員のうち二五名が被申請人組合に加盟し、同組合灰孝小野田レミコン大津分会を結成し、同時に栗東工場の従業員のうち四名が被申請人組合に加盟し、同組合灰孝小野田レミコン栗東分会を結成した。現在の分会員数は、大津分会が一八名、栗東分会が四名である。

また、昭和五六年七月七日、洛北レミコンの従業員のうち八名が被申請人組合に加盟し、同組合洛北レミコン分会を結成した。現在の分会員数は八名である。

(五) なお、灰孝小野田レミコン従業員をもって組織する労働組合としては、被申請人組合の大津分会・栗東分会のほかに、両分会結成以前から存在した同盟交通労連関西地方総支部生コン産業労働組合灰孝小野田レミコン支部および全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部灰孝小野田レミコン分会がある。

また、洛北レミコン従業員をもって組織する労働組合としては、被申請人組合洛北レミコン分会のほかに同分会結成以前から存在した前記生コン産業労働組合洛北レミコン支部がある。

二、本件争議の実情および被申請人組合の違法組合活動の状況について

(一) 昭和六二年三月五日、被申請人組合は、京都地区において同組合が分会を有する申請人会社両社・千原生コン株式会社・京都生コン株式会社・宇部生コン株式会社・有限会社結運輸・近畿生コン株式会社の七社に対し、春闘統一要求書を提出した。

近畿生コン株式会社を除く申請人会社両社ら六社と被申請人組合は、右春闘統一要求書を踏まえて、同年四月一〇日、第一回集団交渉を行い、その後同月一八日、同月二八日の集団交渉を経て、同年五月八日の第四回集団交渉において会社側は統一回答を行った。

(二) 被申請人組合は、右統一回答に対し当初から厳しく難色を示し、労使はその後も集団交渉、トップ交渉、窓口折衝、個別交渉等を繰り返すも、容易に妥結点を見出すことができなかった。

(三) その後被申請人組合は、春闘要求貫徹等を標榜して後述のような苛烈な争議行為を展開し、このような争議状態を背景に、同年八月七日、集団交渉六社に対し、他組合と先行妥結したことに関する謝罪、年間一時金の八万円上積み、経営権を侵害する内容の近代化政策委員会の設置、違法争議行為の免責等を内容とする「最終条件」を提示してきた。

六社は、各社ごとに右最終条件を受諾すべきか否かを検討した結果、同月一〇日、千原生コン・京都生コン・宇部生コンの三社は右最終条件を承諾するに至った(但し、協定書は未調印の模様である。)。

これに対し、申請人会社両社は、慎重な検討の結果、同月一八日、被申請人組合に対し、右最終条件は呑み難いこと、被申請人組合が最終条件に固執しない場合には会社側としてはさらに交渉する用意があることを通告したが、被申請人組合側は「決裂ですなあ。」とこれ以上交渉する意思のないことを宣言した。

これにより被申請人組合と申請人会社両社との間の春闘交渉は、事実上決裂するに至り、被申請人組合はかねてより継続していた争議行為をさらにエスカレートさせることになったのである。

なお、(一)乃至(三)についての詳細は、(証拠略)の「経過報告書」記載のとおりである。

(四) 今春闘に絡む被申請人組合の申請人会社両社に対する争議行為は、早くも昭和六二年三月一一日、灰孝小野田レミコン大津工場における適正積載闘争(順法スト)、さらには、同年四月二〇日の同社大津・栗東工場および洛北レミコン工場における組合旗の掲揚、腕章着用に端を発するものであるが、特に春闘交渉の決裂後は、激烈さを増しながら現在に至っている。この間、被申請人組合が所属組合員および支援団体員らをして行わしめた争議行為は、次のとおりである。

1 出入荷妨害

昭和六二年七月二一日午前八時頃、灰孝小野田レミコン大津工場において、大津分会員松井は、同工場内のプラントバッチャー下に自己が運転するコンクリート・ミキサー車を停止させたまま突如「指定スト」を宣言し、同車を放置した。「指定スト」は午前九時半頃解除されたが、その間、他の車両もプラントバッチャー下に入れないため、製品を積載・搬出することができなかった。

同年八月一日、灰孝小野田レミコン大津工場において、大津分会・洛北分会の分会員ら数名は、同工場内のプラントバッチャー下においてモルタルを積載していた他組合員運転の車両(コンクリート・ミキサー車)の前面に立ち塞がって同車両の通行を妨害・阻止し、会社側の再三にわたる抗議・警告を無視して、約二時間の長時間にわたって出荷を実力により阻止した。このため同車両内のモルタルは固結して製品としての価値を失うとともに、同車両がバッチャー下に釘付けとなったため、他の車両も製品を積載・搬出することができず、事実上業務は不能となり、会社は重大な損害を被るに至った。

その後、被申請人組合は、同月三一日、同年九月一七日、同年一〇月七日、同月一二日、同月一九日、同月二一日以降現在に至るまでの間については土・日を除く毎日(但し、栗東工場については同月二三日以降、洛北レミコン工場についてに同年九月八日及び同年一〇月二六日以降)、大津工場、栗東工場、洛北レミコン工場において、プラントバッチャー下に分会員運転のコンクリート・ミキサー車を停止させ車両のドアをロックしたり、あるいはバッチャー下において積載中のコンクリート・ミキサー車の通行を妨害・阻止したり、プラントバッチャー前に分会員のコンクリート・ミキサー車を停止させる等の出荷妨害を繰返した。

なお、このような争議行為は、通称「バッチャー下の指定スト」などと呼ばれる方法に代表されるものであり、被申請人組合の好んで用いるところであるが、このような争議行為が違法であることは、従来の判例によって繰り返し確認されているところである(大阪地裁昭和六〇年一〇月一七日決定・労働判例四六九号六九頁、同地裁昭和六一年三月一八日決定・労働判例四七三号五八頁等)。

2 会社構内における不法滞留、不法駐車、業務妨害等

被申請人組合は、昭和六二年八月一九日頃より灰孝小野田レミコン大津工場・栗東工場、洛北レミコン工場において、職場離脱中あるいはストライキ中の分会員や支援団体員らをして、工場構内に不法滞留させ、あるいは工場構内に無断で組合の宣伝カーを駐車させ、これによって会社の業務用車両の出入り等を妨害するとともに、宣伝カーのスピーカーを用いるなどして、会社あるいは会社職制に対する非難を内容とするアジ演説・シュプレヒコール等を行い、さらには会社職制や非組合員を取り囲み罵声を浴びせ暴力を振るう等して威嚇し、その業務を妨害する等の違法活動を繰り返している。

3 会社施設に対する組合旗・赤旗・幟・立看板・ビラ等の設置・掲揚・貼付等

灰孝小野田レミコンは被申請人組合に対し、大津工場の会社施設内に組合掲示板を貸与しているにもかかわらず、被申請人組合は、大津工場の食堂・便所の壁面等に、無断で大量のビラを化学糊にて貼付し、会社側が再三にわたってその撤去を申し入れるも、「会社が勝手に取ったらええやろ。」とうそぶいている状況である。このような無法なビラ貼付は、昭和六二年八月頃から開始されたが、春闘交渉決裂後はさらにエスカレートし、昭和六二年一〇月一五日現在、申請人において確認し得ただけでも大津工場内に四〇枚の違法ビラが貼付されている状況である。

また被申請人組合は、昭和六二年四月二〇日、大津工場の西出入口附近のフェンスに組合旗一本を無断で掲揚したが、その後組合旗・赤旗・幟の無断掲揚は増加の一途をたどり、同年一〇月一五日現在、大津工場に七一本、栗東工場に一二本、洛北レミコン工場に三八本の組合旗等が無断で掲揚されている。

4 会社役員私宅に対する嫌がらせ

被申請人組合は、昭和六二年八月二五日、灰孝小野田レミコンの代表取締役山内敏宏、同社の関連会社である株式会社灰孝本店の代表取締役山内康正、洛北レミコンの代表取締役井辻正和の各自宅に宣伝カーで押し掛け、「山内敏宏は組合つぶしをやめろ。」、「山内康正は二重人格者だ。」等と宣伝カーのスピーカーを用いて、会社や社長の悪口をわめき散らすという宣伝活動(に名を借りた嫌がらせ)を行い、その後現在に至るまで日曜・祝日を除く毎日休むことなく同様の嫌がらせを継続している。また、同じ時期から前述の各自宅に対する無言電話が頻繁にかかってきているが、これも被申請人組合の意思に基づくものと思われる。なお、右嫌がらせ行為は専ら昼間に行われているため、社長本人らは不在であり、私宅ではその家族らが組合の嫌がらせに脅えながら毎日を送っているような状況である。

会社役員と言えども、その私生活は会社役員としての地位・立場とは別に平穏な社会生活を営む一個人として保証されなければならない。いかに労働組合と言えども、その私生活の平穏を土足で踏みにじることは許されないのである。ましてや役員の家族・近隣住民に至っては、組合と何の関係もないのであり、このような嫌がらせを甘受しなければならない理由は全く認められないのである。

このような会社役員の私宅に対する執拗な嫌がらせも、被申請人組合の好んで用いる争議手段であるが、まさに同組合の体質を物語るものと言うほかないであろう。

(五) 被申請人組合は、(四)記載のような争議行為とともに、所属組合員および支援団体員をして、申請人会社両社が所有権または使用権限を有し、その業務のために使用している別紙車両目録記載の車両(以下、「本件車両」という。)に対し、多数のビラを貼付している。

1 被申請人組合が車両にビラを貼付したのは、昭和六二年三月頃、大津工場において約一七台に約八五枚のビラが貼付されたのが最初であった。当初は、コンクリート・ミキサー車のフロントガラスや運転席のサイドガラスに「売上税断固反対」、「労基法解約(ママ)反対」、「国家機密法粉砕」、「春闘勝利大幅賃上げ」等のスローガンを赤または黒のマジックで記入した、縦三六センチ、横二六センチのビラを粘着テープ等を用いてガラスの裏面から貼付するという方法であった。

2 ところが、昭和六二年八月下旬頃からビラ貼付の態様がエスカレートするに至った。

即ち、ビラの大きさについては、最大縦七五センチ、横五五センチという大判のビラが登場し、その内容も従前のようなスローガン的なものだけではなく、「灰孝山内社長は業界潰し、組合潰しを直ちにやめろ」、「山内社長は組合潰しをやめよ」、「山内敏宏は法律を守れ」、「灰孝社は生コン業界を潰すな。不当労働行為をやめろ」、「任天堂グループ灰孝社山内一族は組合潰しをやめよ」等と会社あるいは会社役員に対する露骨な悪口を書きなぐったものになった。

また、貼付場所も従前のように車両のガラス面だけではなく、車体の前面・側面・後面にびっしりと、ドラム、ラジエーターグリル等かまわず貼付するようになり、その方法も従前のように粘着テープを用いるのではなく、ビラ裏面全面に化学糊を塗りつけるという方法に変わった。

現在本件車両に貼付されたビラは、大きさがまちまちである上に、張りつけ態様も車両のいたるところに手当たり次第に乱雑に貼付してあり、記載された文字も極めて乱雑である上に内容も露骨であり、穏当を欠くと思われる表現が含まれている。

このように本件ビラ貼付によって、本件車両は外観上極めて見苦しい状態となっているが、ビラは化学糊によって貼付されている上、会社側がビラの除去作業を行おうとすると分会員らが妨害する等、その除去は容易ではない。また、除去作業によって車体のペイントが剥離する等の損傷が生じるおそれも大きい。

3 ビラが貼付された車両およびその枚数は、昭和六二年九月二〇日の時点では(証拠略)記載のとおりであり、その後枚数の顕著な増減はなく、同年一〇月一二日現在では、(証拠略)記載のとおり合計台数は三二台、貼付総枚数一、二八七枚である。

4 申請人会社両社は、本件車両に対するビラの貼付を一度たりとも承認したことはなく、かえって昭和六二年八月二二日付申入書、同月二五日付警告書、同月三一日付撤去催告書、同年九月一日付撤去催告書、同月五日付警告書を以て、被申請人組合に対し貼付ビラの撤去およびビラ貼付の禁止を通告する一方、現場においても再三にわたり口頭で貼付の禁止と貼付ビラの撤去を通告したが、被申請人組合側は、貼付ビラの撤去を行おうとしないのみならず、その後もビラの貼付作業を平然とこれみよがしに行い、さらには会社側のビラの除去作業を妨害する等の行為を繰り返しており、自主的にビラの貼付を中止する見込みは全くなく、今後も本件車両に対するビラの貼付が繰り返されるおそれは極めて高いものと言わなければならない。

三、被保全権利について

以上検討したところによれば、被申請人組合の本件ビラ貼付行為は、正当な組合活動の限界を逸脱する違法なものであり、申請人両会社は、本件車両に対する所有権または使用権限に基づく管理権(占有権)に基づいて、これを排除・予防する請求権を有している。

四、保全の必要性について

(一) 本件車両に対する本件ビラ貼付の状況は前述のとおりであり、本件ビラ貼付によって本件車両は、外観上極めて見苦しい状態に置かれている。

本件車両はコンクリート・ミキサー車であるから、会社構内や人里離れた現場等においてのみ使用に供するものではなく、取引先の現場に出入りすることはもちろん、一般の市街地等を頻繁に走行しなければならないのである。しかも車体には社名が大書されており、第三者であっても本件車両が申請人両会社の使用するものであることは一目瞭然の状態である。従って、このような見苦しい外観の車両を取引先現場に出入りさせ、一般市中を走行させるときは、一般市民に対し申請人両会社内の労使関係が紛糾しており申請人両会社の状態が正常でないとの疑惑を容易に生ぜしめ、ひいては申請人両会社の社会的信用を失墜させ、ことに取引先との関係では契約の中止・縮小等を招きかねないのである。

(二) また、本件車両は大型のコンクリート・ミキサー車であるから、安全運転に対する配慮の必要性は通常の車両以上に重大であるにもかかわらず、フロントガラス等あらゆる窓にビラ・ワッペン等を乱雑に貼付するときは、運転席から車外の状況を十分確認できなくなること必至であり、交通事故を誘発するおそれが甚大である。

また、車両前面のラジエーターグリル(エンジンを冷却する機能を有している。)にビラを貼付するときは、冷却空気が事内に十分取り入れられないことになり、エンジンがオーバーヒートする等して車両自体が破損する危険性も重大である。

そしてこれらの事故やトラブルが発生した場合、被申請人組合が経済的・社会的責任をとる可能性は殆どなく、結局申請人両会社において尻拭いをしなければならない危険性が大きい。

(三) このように、被申請人組合による本件車両に対する本件ビラ貼付行為は、もはや企業として一刻も放置できない重大な状況にたち至っているにもかかわらず、被申請人組合側がかような違法組合活動を自粛する見込みが全くない以上、申請人両会社としては法的手段によりこれを阻止する以外にとるべき途は残されていないのである。

このため申請人両会社は、御庁に対し、所有権等に基づく妨害排除・損害賠償の本訴を提起すべく現在準備中であるが、これ以上違法活動が継続されれば、申請人両会社に著しい損害が生じるおそれがあるため、本案訴訟の勝利を待っては回復しがたい事態にたち至ること必至であり、ために本申請におよんだ次第である。

答弁書

第一、申請の趣旨に対する答弁

一、申請人らの請求を却下する。

二、訴訟費用は申請人らの負担とする。

との裁判を求める。

第二、申請の理由に対する答弁

一、申請の理由第一項(当事者)について

1、同項(一)の事実は認める。

2、同項(二)の事実は認める。

3、同項(三)の事実は認める。

4、同項(四)のうち、被申請人組合が約一、〇〇〇名の組合員を擁していると称しているとの点は否認し、その余は認める。被申請人組合の組織人員は一、七〇〇名である。

5、同項(五)のうち、申請人両社に同記載の各組合が存在することは認め、その余は否認する。被申請人組合分会の結成以後に、同盟交通労連生コン産労の各支部及び運輸一般関西地区生コン支部の分会が結成されている。

二、同第二項(本件争議の実情及び被申請人組合の違法組合活動の状況について)について

1、同項(一)の事実は認める。

2、同項(二)の事実は認める。

3、同項(三)のうち、同年八月七日被申請人組合が集団交渉六社に対し、他組合と先行妥結したことに関する謝罪、年間一時金の八万円上積み等を内容とする「最終条件」を提示したこと、同月一〇日千原生コン、京都生コン、宇部生コンの三社が最終条件を承諾したこと、同月一八日被申請人組合と申請人両社との間の春闘交渉が事実上決裂したことは認め、その余は否認する。なお、「最終条件」の中に、経営権を侵害する内容の近代化委員会の設置、違法争議行為の免責などは存在しない。

4、同項(四)前文中、昭和六二年三月一二日被申請人組合が大津工場において適正積載闘争を行ったことは認めるが、その余は否認する。なお、適正積載闘争は順法ストではない。

(一)、同項(四)の1(出入荷妨害)のうち、被申請人組合が昭和六二年七月二一日午前八時頃大津工場において分会員松井の指名スト宣言を行い、午前九時半頃その指名ストを解除した事実は認め、その余は否認する。

(二)、同項(四)の2(会社構内における不法滞留、不法駐車、業務妨害等)のうち、被申請人組合が昭和六二年八月一九日頃より各工場に宣伝カーを駐車させたことは認め、その余は否認する。

(三)、同項(四)の3(会社施設に対する組合旗・赤旗・幟・立看板・ビラ等の設置・掲揚・貼付等)のうち、被申請人組合が申請人主張の各所に組合旗、赤旗、幟の掲揚及びビラの貼付を行ったことは認め、その余は否認する。

(四)、同項(四)の4(会社役員自宅に対する嫌がらせ)のうち、被申請人組合が会社役員自宅へ宣伝活動を行ったことは認め、その余は否認する。

5、同項(五)の前文中、被申請人組合が車両にビラを貼付したことは認め、その余は否認する。

(一)、同項(五)の1は否認する。なお、車両に対する「売上税断固反対」「労基法改悪反対」「国家機密法粉砕」「春闘勝利大幅賃上げ」等のビラ貼付については、被申請人組合は以前より行っていたものである。

(二)、同項(五)の2のうち、ビラの大きさとビラの記載内容は認め、その余は否認する。

(三)、同項(五)の3のうち、ビラ貼付の車両台数は認めるが、その余は否認する。

(四)、同項(五)の4のうち、同記載の申入書・警告書・撤去催告書が出されたことは認めるが、その余は否認する。なお、被申請人組合は、過去においても申請人両社の車両にビラを貼付したことは度々あるが、申請人両社はこれまで車両に対するビラ貼付は黙認してきた。

三、同第三項(被保全権利について)について

争う。

四、同第四項(保全の必要性について)について

否認し、争う。

第三、被申請人の主張

追って。

被申請人第一準備書面

一、ビラ貼付禁止仮処分についての一般的基準

1 本件において、申請人は被保全権利を車両の所有権・占有権に基づき構成している。そのこと自体については争いはない。本件で問題となるのは、被申請人組合のビラ貼付が正当性・相当性を有するかどうか(これも被保全権利の存否の問題である。新版保全処分概論西山俊彦著一粒社四一五頁参照。)、保全の必要性があるかどうか、である。

2 まず、被保全権利の問題につき述べる。この点に関して、「当該施設の性質、貼付された範囲、枚数、その内容、貼り方などを総合して考慮してみたとき、ビラ貼りが使用者の業務に格別の支障を来たす事がなく、施設の維持管理にも妨げがないと判断される場合には、妨害排除の請求権が否定されるかあるいはまた仮処分の必要性に乏しいという結論になるに違いない。使用者の施設管理権はオールマイティではないからである。」(保全処分の体系下巻吉川大二郎博士還暦記念法律文化社労働事件における使用者側仮処分色川幸太郎執筆部分、六八九頁)という見解が示唆に富む。

また、直接にはビラ配布の事件であるが、企業施設と組合活動の関係につき、「しかしながら、一方、労働者には憲法上労働基本権が保障されており、とくに、企業内労働組合にあっては、当該企業で働く労働者が所在する企業施設内にその主たる活動の場を求めざるを得ないことからすれば、使用者としても労働基本権保障の精神を尊重して、企業の運営に支障が生じ企業秩序が乱されるおそれがない限り、労働組合ないし労働者が演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等の目的で企業施設を利用することを受忍すべきであり、右のようなおそれがないのに、無許可であることの故を待って直ちに懲戒権を発動することは権利の濫用として許されないと解するのが相当である。」(大鵬薬品工業事件、徳島地方裁判所昭和六一年一〇月三一日判決、労働判例四八五号四一頁)と判示している判例がある。

以上の見解等からしてビラ貼付禁止仮処分においては、「ビラ貼付が使用者の業務に格別の支障を来たす事がなく、施設の維持管理にも妨げがない」とか「企業の運営に支障が生じ企業秩序が乱されるおそれがない」という状況下では、被保全権利は否定されなければならない。

3 次に、仮に労働組合のビラ貼付が違法と判断される場合でも、ビラ貼付禁止仮処分のような満足的仮処分においては、保全の必要性についての疎明は通常より高度であることが要請される。

この点につき、本件の同じビラ貼付禁止の仮処分事件において、他会社に貸与されあるいは貸与される予定となっている四七台のシャーシ以外の車両については保全の必要性を否定した次の判例は参考となる。

「1 本件仮処分申請は申請人に本案で勝訴したのと同様の結果を享受せしめることを内容とする満足的仮処分の発令を求めるものであるから、申請人において本案訴訟における解決を待っていては申請人に著しい損害の生ずるおそれのあること(保全の必要)につき疎明することを要する。

―中略―

しかし、右四八台を除くその余の本件車両については、申請人の業務内容<前記一、1、(一)>、右車両の用途、保管状況、貼付ビラの記載内容などよりして申請人がその所有又は管理する右車両がビラの貼付によって外観上相当見苦しい状態にあることによって当然に重大な悪影響を受けるとは認め難いので、右車両に貼付されるビラの枚数が近時減少してきていることも考慮すると、右車両がビラの貼付によって相当見苦しい状態となっていることをもっては申請人に本案での解決を待つまでの間に著しい損害を生ずるおそれがあるとまではいうことができないし、他に右車両につき前記1の意味における保全の必要を具体的に疎明するに足りる資料はない。」(日東運輸事件、大阪地方裁判所昭和六〇年五月一六日決定、労働判例四五四号四六頁以下)。

右判例を本件に適用すれば、その結論は自ずと明らかである。

二、本件における具体的検討

以上のような判例等の内容を踏まえ、本件につき具体的に検討する。

1 本件ビラ貼付は、労働組合の活動として正当性・相当性を有しており、被保全権利は認められない。

(一) まず、被申請人組合は、過去においても申請人両社の車両にビラを貼付したことは度々あるが、申請人両社はこれまでこのようなビラ貼付を黙認してきた。また、「売上税断固反対」「労基法改悪反対」等の縦三六センチ横二六センチのビラについては、本年三月よりずっと以前から貼付していたものであって、本年八月以前までは申請人両社から文句を言われたことがない。

(二) ビラの内容は、「春闘勝利大幅賃上げ」「山内社長は組合潰しをやめよ」「山内敏宏は法律を守れ」(申請人両社は、労務屋を雇い組合潰しをはかり、道交法に違反して過積載を行っている)等であり、その内容は労働者・組合の権利・要求に関する正当な主張・宣伝文句であって、名誉毀損や個人に対する誹謗中傷を内容とするものではない。

(三) ビラの貼付は「洗たくのり」で行っており、水荒い等により容易に除去できるものであって、車体のペイントが剥離する等の損傷を生ずるおそれはない。

(四) ビラはフロントガラスには貼付していず、またラジエーターグリルの機能には何ら支障を及ぼさない貼付方法となっており、車両運行の安全性をそこなったり車両を破損したりするおそれは全くない。

(五) 本件車両は「ミキサー車」であって、外観上の美醜が重視される車両ではない。

(六) 本件車両は、現在も運行されており、ビラ貼付によって何ら申請人両社の業務に支障を来たしていない。

2 本件ビラ貼付禁止仮処分は、保全の必要性が存在しない。

(一) 前記のとおり、本件ビラの内容は、労働組合としての正当な主張・宣伝文句であって、申請人両社の社会的信用を失墜させたり取引先との関係で契約の中止・縮小を招くような記載内容ではない(食品会社において食品が腐っているといった内容のビラ貼付を行っているのとはわけがちがう)。この点に関する申請人両社の主張が通るなら、労使紛争の際、労働組合は街頭で宣伝したりビラをまいたりすることさえ許されなくなるではないか。

(二) 前記の通り、本件ビラ貼付は、車両運行の安全性をそこなったり、車両に損傷を生ぜしめたりするおそれは全くない。

(三) 前記の通り、本件車両は現在運行されており、ビラ貼付によって何ら申請人両社の業務に支障を来たしてない。

(四) 申請人両社は、本年八月一九日労務屋江口昭なる人物を雇い入れ、法を無視して一方的に労働条件を変更したり、いやがらせ目的の業務命令を連発するなど組合潰しをはかってきた。労使紛争を「労務屋」(法を無視して組合潰しを遂行する点ではヤクザと同じである)なる者を一時的に雇い入れ組合潰しをはかることによって解決しようとする申請人両社のような会社は、自由主義社会における秩序をはみ出した悪質企業であって、クリーンハンドの原則からして、法の救済を求める利益を有しないといわなければならない。

第一準備書面に対する反論(略)

当事者目録

申請人 灰孝小野田レミコン株式会社

右代表者代表取締役 山内敏宏

申請人 洛北レミコン株式会社

右代表者代表取締役 井辻正和

右申請人両名代理人弁護士 竹林節治

同 畑守人

同 中川克己

同 福島正

被申請人 全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部

右代表者執行委員長 武建一

右代理人弁護士 小山千蔭

同 中島俊則

同 海藤寿夫

同 三浦正毅

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